スピードと安全を両立させる配達の考え方|「急ぐほど稼げる」は本当か
「速く回すほど稼げる」と思われがちだが、国のデータでは軽貨物だけ事故が増え、事故の最多は焦りが生む追突だ。2025年4月の安全記録義務化や休憩の目安をふまえ、急がず件数を最大化する考え方を整理する。
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結論から言うと、配達の仕事で「速く回すほど稼げる」という考え方は、データの上では成り立たない。軽貨物(黒ナンバー)だけが事故を増やしており、その最多は焦りや気の緩みが生む追突だ。むしろ、急がず持続可能なペースを保って事故を起こさないことが、長い目で見れば件数を最大化する。この記事では、国土交通省などの一次データをもとに、(1)なぜ「急ぐほど稼げる」が誤解なのか、(2)事故の正体、(3)2025年4月から始まった安全記録の義務化と休憩の目安、(4)本当に件数を伸ばす余地はどこにあるか、を順に整理する。割合や件数などの変動する数字は2026-07-08時点のものを用いる。
「急ぐほど稼げる」は誤解 — 増えているのは軽貨物の事故だけ
ネット通販(EC)の拡大で、軽貨物の車両数はこの数年で急増した。国土交通省の資料によると、事業用軽貨物車の保有台数は2022年(令和4年)3月末で約33万台となり、2016年(平成28年)末と比べておよそ10万台増えている。1台・個人事業主からでも参入しやすいため、宅配需要の伸びを背景に新規参入が加速したかたちだ。走る車が増えれば、そのぶん一台一台が背負う責任も重くなる。
ここで注目したいのが事故の推移だ。国土交通省によると、保有台数1万台あたりの事業用軽自動車の死亡・重傷事故件数は、平成28年(2016年)から令和4年(2022年)にかけておよそ5割増加した。しかも、この増加傾向が見られるのは軽貨物だけで、軽貨物以外の貨物自動車の死亡・重傷事故はむしろ減少傾向にある。つまり業界全体が安全になっていく流れの中で、軽貨物だけが逆行して事故を増やしているということだ。「たくさん・速く運ぶ」ことが常態化した結果が、この数字に表れていると読める。国はこの状況を重く見て、後述する安全対策の強化に踏み切った。
事故の最多は「追突」、その正体は焦りと漫然運転
では、どんな事故が起きているのか。全日本トラック協会の集計では、事業用貨物自動車の人身事故のうち最も多いのが「追突」だ。令和3年(2021年)の統計では、駐停車している車両への追突が3,765件(全体の40.0%)で最多となり、走行中の車両への追突も合わせると、追突だけで4,326件(45.9%)を占めた。人身事故のおよそ半分が追突ということになる。
この追突が起きる状況にも共通点がある。国土交通省の要因分析では、トラックの追突事故のおよそ6割が、車外・車内への前方不注意(脇見や漫然運転など)のもとで発生し、およそ7割が直進・ほぼ等速で走っている最中に起きているとされる。つまり、危険な場面に無理に突っ込んで起こる事故というより、「前をしっかり見ていなかった」「気が緩んでいた」ことが引き金になっている。次の配達を急ぐ焦りや、単調な運転による注意の低下こそが、最大の事故要因だと言える。スピードを優先するほど、この「前方不注意」のリスクに自分から近づいてしまう。
2025年4月からは「記録に残る運転」— 休憩の目安も押さえる
こうした事故の増加を受けて、2025年(令和7年)4月から、貨物軽自動車運送事業の安全対策が強化された。主な内容は、営業所ごとに「貨物軽自動車安全管理者」を選任して講習を受けさせること、毎日の業務記録を作成して1年間保存すること、事故記録を作成して3年間保存すること、一定規模以上の事故を国土交通大臣へ報告すること、特定の運転者への指導・適性診断を行い運転者等台帳を作成すること、などだ(バイク便事業者は一部が対象から除かれる)。1台・1人で営む事業者も対象になり得るため、安全は「気をつける」という心構えの話から、「記録し、管理する」義務へと変わったと理解しておきたい。
安全を支えるもう一つの柱が体調管理だ。道路交通法第66条は、疲労や病気などで正常な運転ができないおそれがある状態での運転(過労運転等)を禁じており、これは雇われているかどうかに関係なく、すべての運転者に当てはまる。事業用の運転では、連続運転は4時間を超えないようにし、おおむね2時間に1回程度は休憩をとることが望ましいとされる。とりわけ睡眠不足は要注意で、夜間の睡眠が6時間未満だと、7時間とっている人に比べて居眠り運転の頻度が高く、追突事故や自損事故を起こす頻度も高いことが示されている。眠気や疲れを感じたまま「あと数件」と走り続けることは、追突を自ら招く行為に近い。
件数を伸ばす余地は「速さ」ではなく「再配達削減」にある
では、事故のリスクを上げずに件数を伸ばすにはどうするか。答えの一つが再配達の削減だ。国土交通省の試算では、宅配便のおよそ1割にのぼる再配達を運ぶために、年間で約6万人のドライバー分に相当する労働力が費やされ、再配達トラックが出すCO2は年間およそ25.4万トンにのぼる(令和2年度の試算)。再配達は「もう一度、同じ家に行く」だけの、稼ぎにつながらない稼働だ。実際の再配達率は、国のサンプル調査で令和6年10月が約10.2%、令和7年4月が約8.4%、令和7年10月が約8.3%と下がってきているが(いずれも2026-07-08時点で公表されている数値)、政府が総合物流施策大綱で掲げる「2020年度の10%程度を2025年度に7.5%程度へ」という目標にはまだ届いていない。事前通知の活用や置き配・宅配ボックスの利用で不在戻りを減らせば、そのぶんの時間を本来の配達や休息に回せる。速く走って詰め込むよりも、ムダな再配達を減らし、積み込みやルートを見直すほうが、事故のリスクを増やさずに実入りを増やせる余地は大きい。
結局どうすればいいか
やるべきことを整理する。第一に、「速く回すほど稼げる」という思い込みを捨てる。データ上、事故を増やしているのは軽貨物だけで(保有台数1万台あたりの死亡・重傷事故は平成28年から令和4年でおよそ5割増)、その最多は焦りや漫然運転が生む追突だ。第二に、前をしっかり見て車間を保ち、単調な運転でも注意を切らさない。追突の約6割は前方不注意、約7割は等速走行中に起きている。第三に、体を守る。連続運転は4時間以内、おおむね2時間に1回は休憩し、夜の睡眠は6時間を切らないようにする(過労運転は道路交通法第66条で全運転者が禁止されている)。第四に、2025年4月からの業務記録(1年保存)・事故記録(3年保存)・運転者等台帳などの義務に沿って、運転を「記録に残す」。第五に、件数はスピードではなく、再配達削減や積み込み・ルートの見直しで伸ばす。急がず、事故を起こさない持続可能なペースを守ることが、結局はいちばん件数を最大化する。ここに挙げた数字は2026-07-08時点のものなので、最新の状況は国土交通省などの発表で確認してほしい。
出典・参考
官公庁など一次情報を中心に確認しています(確認日を併記)。
- 貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための制度改正を行いました(報道発表)(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 物流・自動車:貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための制度改正について(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 事業用貨物自動車の交通事故の発生状況(令和4年)(PDF)(公益社団法人全日本トラック協会)2026年7月8日 確認
- 自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会報告書(トラックの追突事故防止)(PDF)(国土交通省)2026年7月8日 確認
- トラック輸送の過労運転防止対策マニュアル(PDF)(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 安全教育・事故防止マニュアルを活用しよう(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 物流:宅配便の再配達削減に向けて(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 令和7年10月の宅配便の再配達率は約8.3%(報道発表)(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 令和6年10月の宅配便の再配達率は約10.2%(報道発表)(国土交通省)2026年7月8日 確認
- 物流:宅配便の再配達率サンプル調査について(国土交通省)2026年7月8日 確認
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